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今月のワード:MaaS(Mobility as a Service)
近年ますます注目度が高まっている次世代移動サービス、MaaS(マース、Mobility as a Service)。「サービスとしてのモビリティ」や「モビリティのサービス化」などと訳される。解釈の仕方は一つではないようだが、「最終目的地までのあらゆる交通機能とそれらの関連サービス(検索、予約、発券、決済など)を一つのサービス(a Service)として提供する、新たなモビリティ/移動(Mobility)の概念」といえる。

MaaSを利用すれば、移動の際に複数の交通機能を利用する場合であっても、最適なルートの特定からその予約・発券・決済まで全てを、一つのアプリなどで完結できるようになる。その核となるプラットフォームを提供するのがMaaSオペレーターであり、そこに様々な交通機能や関連サービスを連携させることで、利用者の幅広いニーズに応えられるモビリティの一元的な提供が可能となる。

関連サービスの統合範囲という軸でみると、MaaSは以下に示すような5つのレベルに分類することができる。レベル1までのサービスは、移動ルートを検討・確認する際など、既に日常的に利用されているものだ。

MaaSのレベル
20191218MaaS1.PNG
(出所)みずほ総合研究所 小林香咲
Jana Sochor他「A topological approach to Mobility as a Service」(2017年)より作成


一方、レベル2では、移動ルートの特定後にその予約や決済までを一元的に済ませることができるようになる。例えば、トヨタ自動車と西日本鉄道が2018年11月より福岡市で実証実験として運用を開始したMaaSサービス「my route(マイルート)」では、公共交通、自動車、自転車、徒歩などを組みわせたルート検索とその予約・決済が可能だ。

店舗やイベントの情報も搭載されているmy routeは、約1年間の実証期間におけるアプリのダウンロード数が約3万件に上り、利用者アンケートでも好評を博した。2019年11月からは、新たに九州旅客鉄道が参画し、福岡市・北九州市で本格実施を開始しており、今後の事業拡大が期待されている。

次の段階となるレベル3では、一度の移動のみならず、一定期間にわたって移動にかかるサービスを提供できるようになる。サービス統合型MaaSと言われている「Whim(ウィム)」などがこれに該当し、サブスクリプション方式(一定期間の利用権に応じた料金を支払う方式)を取り入れている点が特徴的だ。

Whimは、フィンランドを拠点とするMaaS Global社が開発したサービスであり、2017年に同国首都のヘルシンキで本格運用を開始した。現在は欧州内の複数都市で事業を展開している。下表はヘルシンキで提供されている4つの料金プランだ。

Whimの料金プラン
20191218MaaS2.PNG(出所)みずほ総合研究所 小林香咲   MaaS Global社Whimウェブサイトより作成

月額499ユーロから利用できる「Whim Unlimited」の場合、一定の制約下ではあるが、公共交通などに加え、レンタカーの利用が対象サービスに含まれている。自家用車の代替手段にもなり得る内容だ。MaaS Global社の発表によれば、ヘルシンキにおけるWhim利用者の移動手段に占める自家用車の割合は、Whim導入前に比べ半減したという。

MaaSは、あらゆる交通手段への一元的なアクセスという利便性の向上もさることながら、本来的には、自家用車利用の抑制による渋滞緩和やCO2排出量削減、ラストワンマイル(最寄りの駅やバス停などの交通結節点から、自宅などの最終目的地まで)の交通手段の提供など、都市交通が抱える社会課題の解決にも寄与することが期待されている。レベル4は、そうした社会的な目的への貢献度がインセンティブとしてサービスに組み込まれた状態を指す。例えば、CO2排出量がより少ないルートを選択した場合に割引料金を適用したり、混雑状況に応じて弾力的な料金設定をしたりすることが考えられ、今後の社会実装が待たれる。
収益モデル確立など課題も顕在化
日本国内においては、鉄道会社や高速バス会社といった既存の交通事業者やIT・ベンチャー企業などによるMaaSサービス開発の動きが活発化している。2019年は新たな実証実験開始などのニュースが相次いだ。

Autono-MaaS(自動運転車とMaaSを融合させた、自動運転車を利用したモビリティサービス)の開発を進めるトヨタ自動車は、10月に開催された東京モーターショーにて、東京オリンピック・パラリンピックで使用されるAutono-MaaS専用電気自動車「e-Palette」を発表し、大きな話題を呼んだ。

国や自治体も積極的に動き始めている。経済産業省と国土交通省は2019年4月より「スマートモビリティチャレンジ」を開始。産官学で構成される会員間での情報共有やマッチングなどを促している。6月には新たなモビリティサービスの社会実装に取り組む地域・事業を募集し、計28の地域・事業を支援対象として選出。全国各地で実証実験などが始まっている。

日本企業のみならず、MaaS分野で先行する欧米においてパイオニア的な存在のMaaS Global社も日本での事業展開を進めている。同社は、2019年4月に三井不動産と街づくりにおけるMaaSの実用化に向けた協業について契約。年内には千葉県柏の葉エリアにてWhimの実証実験を開始するとしている。他の実証実験の多くがレベル1~2であるのに対し、本実証実験では、開始から数カ月後にはレベル3に相当する月額制のプランを開発する予定としており、日本初のサービス統合型MaaSが実装されるかもしれない。同社は10月に小田急電鉄とも連携にかかる合意を交わしており、今後、日本でのプレゼンスをますます高めることが予想される。

2020年は、こうした取り組みが成果となって表れ始めると同時に、企業間でのデータ・機能連携、地域特性への適応や収益モデルの確立といった、MaaSならではの課題も顕在化してくるだろう。MaaSの事業展開にあたっては、連携している交通機能や関連サービスの充実度に加え、サービス提供を通じて得られる利用者データの活用も重要な要素の一つである。そのため、先行者の優位性が働きやすいビジネスといえる。近い将来、MaaSを日常的に使える日が来ることを楽しみに、2020年も各社の動向に注目していきたい。

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小林 香咲(こばやし・かすみ)
みずほ総合研究所 社会・公共アドバイザリー部 主任研究員
内閣府や国土交通省をはじめとする中央省庁および地方公共団体の政策調査、PPP/PFI事業化アドバイザリー業務などに従事。スポーツ分野から、空港や上下水道のインフラ分野まで、多岐にわたる調査実績がある。海外のPPP/PFI制度に関する調査研究も担当。主な講師実績に「官民連携事業の推進のための地方ブロックプラットフォーム研修」(国土交通省)。早稲田大学大学院工学修士。国際協力機構にて資源・エネルギー分野のODA事業にかかる企画・監理等の経験を経て、みずほ総合研究所(現職)
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