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今月のワード:Viability Gap Funding(VGF)
PPP事業で必要な費用(資金調達コストや事業者の収益を含む)に対し、事業から得られる収入が不足する、または不足するリスクが高い場合への対応策として、発注者である公共機関がとり得る施策が世界各国で開発されてきた。その一つに、Viability Gap Funding(バイアビリティ・ギャップ・ファンディング/VGF)がある。

「Viability」とは実現可能性を意味し、PPP事業において、利用料金収入のみでは事業費が回収できないことを「Viability Gapがある」という。VGFの基本的な目的は、公共が補助金などによりViability Gapを埋めることで、当該事業を民間事業者が実施することを可能とし、民間の投資家にとって魅力的な案件に仕立てることである。

その観点から広義に捉えれば、VGFには国や事業の特性に応じた様々な形態が存在する。例えば、運営・維持管理期間にわたって需要リスク低減や採算性確保を図るAvailability Payment(アベイラビリティ・ペイメント)や最低収入保証などを、その一つと位置付ける場合もある。こうしたViability Gapを埋めるための施策を導入するにあたっては、目的に応じ、実施するタイミングや方法、対象とする費目を適切に設定することが重要と言える。

一方、本稿で着目するVGFは、PPP事業において事業開始時に施設整備費の一部を公共が負担する施策である。代表例は、2005年にインド政府が導入したViability Gap Funding Scheme(VGF制度)だ。一見すると、一般的な施設整備費の補助金と似ているようだが、PPP事業に限定し事業性を確保するために必要な金額を供与すること、その金額は当該事業を実施する事業者の提案により決められることなどが特徴として挙げられる。

Viability Gap Fundingの概念図
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事業開始時に多額の建設費を要するPPP事業に有効とされる本施策は、これまでにインドのほか、インドネシアやベトナムなど、資金調達リスクが高く、グリーンフィールド案件が多い新興国を中心に導入されてきた。
導入事例(1)インドのViability Gap Funding Scheme
インド政府が導入したVGF制度では、中央政府から最大で事業費の20%、必要な場合はさらに事業の実施機関などから最大で事業費の20%をVGFとして拠出することが認められている。VGFの額は入札における評価項目となり、事業者の提案で決まるとされる。過去にはVGFがマイナス(事業者から公共へ支払い)となったこともあった。実際のVGFは、事業者による投資実行後、金融機関による融資の実行状況に合わせて拠出される。

利用料金の支払いに基づきサービスを提供するPPP事業であり、利用料金があらかじめ定められることが本制度の適用条件の一つとなっている。対象分野は、道路や橋・鉄道などの交通事業、電力事業、上下水道などの都市部のインフラ事業、特別経済区におけるインフラ事業、観光関連のインフラ事業など多岐にわたる。

VGF制度の適用を受けるためには、実施機関が事業ごとに、諮問機関または諮問委員会より、入札前の事前承認(in-principle approval)と落札者決定後の最終承認(final approval)を受ける必要があり、財務省から与えられた予算内でVGFの管理がなされている。

インドでは、2005年のVGF制度導入以降2019年7月までの間に、VGFの最終承認を得たPPP事業は63件に上り、うち道路事業が49件と8割近くを占める。また、事業費に占める中央政府からのVGFの比率は同63件中43件で20%となっている。事業規模は様々であり、地下鉄「ハイデラバード・メトロ」の整備・運営事業では、当初の事業費約17億ドルに対し、約2億ドル(16%)のVGFが承認され、VGF制度が適用された事業の中では最大規模となった。
導入事例(2)インドネシアのViability Gap Fund
2012年に導入されたインドネシアのVGFは、適用対象とする事業に対し、以下のような要件が課せられている。
  • 経済的な実現可能性(economic viability)はあるが、財務的な実現可能性(financial viability)がなく、VGF以外の代替手段による解決ができないこと
  • 原則として利用料金を徴収する事業であること(アベイラビリティ・ペイメントとの併用は可)
  • 総事業費が1000億ルピア以上であること
  • 透明性および競争性のある入札により選ばれた事業会社が実施する事業であること
  • 事業終了後に所有権が公共へ移転されること
など

VGFの適用を受けるには、①予備調査終了時点での事前承認(in principle approval)、②入札の事前資格審査実施後、提案依頼書発行前の上限金額承認(VGF cap amount approval)、③事業者選定後の最終承認(VGF final approval)――の3段階で財務省の承認を得る必要がある。

最終的なVGFの額は選定された事業者の提案金額となり、建設期間中(工事の進捗に応じた支払い)または商業運転開始後のいずれかのタイミングで支払われる。

現在、建設段階にある事業を含め、これまでに水供給事業や有料道路事業、情報通信事業にVGFが適用されてきた。VGFが初めて適用された東ジャワのUmbulan水供給事業では、1億4000万ドルの事業費に対し、約4割に当たる5700万ドルのVGFが財務省より供与され、利用料金の抑制が図られている。

VGFを適用すると事業者による資金調達額を減らすことができ、民間企業の積極的な参画を促したり、利用料金を社会的に望ましい水準まで低く抑えたりする効果が期待される。また、民間のノウハウや競争原理が反映された金額をVGFとして事業者から提案してもらうことで、公共は補助金額の適正化を図ることができる。

一方、過度な競争や楽観的な需要予測により、適切な額のVGFが提案されなければ、事業継続上の課題となる恐れもある点には留意が必要だ。発注者となる公共側では、限られた予算の中でVGFを真に適用すべき事業が選定され、本来の目的に資する妥当な額のVGFが設定されるような仕組みをつくることが肝要となる。

(参考資料)
インド財務省経済局ウェブサイト
インドネシア財務省ウェブサイト
インドネシア国家開発企画庁「PUBLIC PRIVATE PARTNERSHIP 2019」

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小林 香咲(こばやし・かすみ)
みずほ総合研究所 社会・公共アドバイザリー部 主任研究員
内閣府や国土交通省をはじめとする中央省庁および地方公共団体の政策調査、PPP/PFI事業化アドバイザリー業務などに従事。スポーツ分野から、空港や上下水道のインフラ分野まで、多岐にわたる調査実績がある。海外のPPP/PFI制度に関する調査研究も担当。主な講師実績に「官民連携事業の推進のための地方ブロックプラットフォーム研修」(国土交通省)。早稲田大学大学院工学修士。国際協力機構にて資源・エネルギー分野のODA事業にかかる企画・監理等の経験を経て、みずほ総合研究所(現職)
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