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今月のワード:ファイナンス・クローズ
「コマーシャル・クローズ」と「ファイナンス・クローズ」
プロジェクト・ファイナンスを利用するインフラ事業などにおいて、重要なマイルストーン(節目)の一つにファイナンス・クローズ(Financial Close)がある。事業契約などが締結された時点を表すコマーシャル・クローズ(Commercial Close)に対し、ファイナンス・クローズは、外部金融機関からプロジェクトへの融資が確保された時点を指す。

ファイナンス・クローズは、融資関連契約が締結された時点を意味する場合もあるが、貸出先行条件(Conditions Precedent/CP)と呼ばれる、貸し出しの実行にあたり満たすべき要件が充足され、実態として貸し出しが可能になった時点を指すことが多い。融資関連契約の締結をドライ・クローズ、貸出先行条件の充足をウェット・クローズとして区別することもある。
ファイナンス・クローズを迎えるまで

事業者選定段階

金融機関からの資金調達に関する検討は、コマーシャル・クローズより前から行われる。事業者は、事業の検討段階からプロジェクト・コストを試算し、手元資金ではプロジェクト・コストを賄えないと判断した場合や、投資効率を高めるべく借り入れによる資金調達を望む場合は、金融機関に融資の検討を依頼する。ただし、プロジェクト・ファイナンスは、対象事業から生み出される収益(キャッシュフロー)を主な返済原資とするため、事業契約などが未確定である事業者選定の段階では、金融機関は関心表明書(Letter of Intent/LOI)を出すまでにとどまることが多い。

一方で、国や事業の特性によっては、事業者選定段階で金融機関からの資金調達にかかる確約(コミットメント)までなされる場合もある。

例えば、日本のPFI事業では、事業者選定時に応募者が提出する資金調達計画において、応募者が自主的に金融機関からの融資確約書などを用意する場合が少なくない。PFI事業はサービス購入型が多いため、事業リスクが低く、コミットメントを得やすいという点と、コミットメント付きの提案は資金調達リスクが低く、より魅力的なものとなるという点が背景にある(豪州では、連邦政府が公表しているPPP事業にかかるガイドライン「National Public Private Partnership Guidelines」(2015年10月)において、資金調達リスクが懸念される場合の対応策の一つとして、入札時点で出資のみでなく融資についても確約を取り付けることが挙げられている)。

事業者が選定されると、発注者・事業者間で事業契約などの詳細を決めて、締結する(コマーシャル・クローズ)。

コマーシャル・クローズからドライ・クローズまで

コマーシャル・クローズを迎えると、事業の骨格が決まる。そこで、レンダーとなる金融機関は、関連する技術や法律などの専門的な知識を有するアドバイザーを起用しつつ、当該事業のリスクなどの正確な精査・把握に努める(デューデリジェンス  Due Diligence/DD)。

デューデリジェンスの結果、借入人となる事業会社と金融機関の間で評価が異なる事項や金融機関が許容できない事業条件などがあれば、時に事業会社に締結済みの事業関連契約を修正させたり、事業関連契約の相手方と金融機関が直接契約を締結したりするなどして妥協点を探り、それらも踏まえて融資関連契約を作成・締結することとなる(ドライ・クローズ)。

多岐にわたる関係者調整に加え、その結果を反映させた契約文書の作成を行うこのプロセスは、事業関係者やレンダーの属性・数、事業スキームの複雑性などに応じて、長い期間を要することもある。

ドライ・クローズからファイナンス・クローズ(ウェット・クローズ)まで

融資関連契約の締結後、融資が実行されるためには、貸出先行条件がすべて満たされるか、満たされない貸出先行条件について金融機関が権利放棄する必要がある(金融機関は、債権保全に支障がない場合は、権利放棄に応じる場合が多い)。

貸出先行条件は、主に以下のような事項で構成される。
  • 事業関連契約(事業契約、建設請負契約、土地利用に関する契約、オフテイク契約、原燃料調達契約、O&M契約、保険契約など)の締結・発効
  • 出資関連契約(株主間契約、出資/劣後融資契約など)の締結・発効
  • 融資関連契約(融資契約、担保設定契約、債権者間契約など)の締結・発効
  • 事業実施に必要な各種許認可の取得 など

ドライ・クローズ後も、環境・社会配慮などにかかる潜在リスクが顕在化することもあれば、発注者である現地政府が実施責任を負う事項が遅延することもあり、貸出先行条件は必ずしも順調に充足されるとは限らない。そうした想定外の事態に見舞われるリスクを最小限に抑えるためにも、事業者は融資関連契約の締結前から貸出先行条件に関連する文書の収集などを進めておき、スムーズなファイナンス・クローズ到達を目指すことが望ましい。

国や事業によっては、コマーシャル・クローズからファイナンス・クローズまでの期日を事業契約などで定める場合もある。上述した豪州のPPP事業にかかるガイドラインでは、事業ごとに貸出先行条件の特性に応じて変わるとしつつ、以下のとおり基本的な目標日数を示している。
  • 民間が需要リスクを負い、利用料金を直接収受する事業の場合:60営業日以内
  • 民間が需要リスクを負わず、アベイラビリティ・ペイメント方式に基づき政府から対価が支払われる事業の場合:20営業日以内

なお、融資が複数回に分けて実行される場合には、初回の融資実行時のみならず、2回目以降の実行に関しても、事業進捗に合わせて貸出先行条件が課せられる。また、融資関連契約に併せて定められる「コベナンツ」と呼ばれる誓約事項と表裏一体をなして、融資期間中に事業会社が守るべき義務が定められる。

ファイナンス・クローズは、本格的な事業の開始のみならず、当該事業における金融機関の権利・義務が有効化され、事業継続にかかるモニタリング機能が確立されることを意味する。また、複数の金融機関の取りまとめ役であるアレンジャーを務める金融機関は、ファイナンス・クローズを迎えた時点で、成功報酬としてのアレンジャー・フィーを受け取る場合が多い。

事業が実態を伴って動き出すことを意味するファイナンス・クローズは、発注者・受注者の両者にとって、事業における重要なマイルストーンなのである。

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小林 香咲(こばやし・かすみ)
みずほ総合研究所 社会・公共アドバイザリー部 主任研究員
内閣府や国土交通省をはじめとする中央省庁および地方公共団体の政策調査、PPP/PFI事業化アドバイザリー業務などに従事。スポーツ分野から、空港や上下水道のインフラ分野まで、多岐にわたる調査実績がある。海外のPPP/PFI制度に関する調査研究も担当。主な講師実績に「官民連携事業の推進のための地方ブロックプラットフォーム研修」(国土交通省)。早稲田大学大学院工学修士。国際協力機構にて資源・エネルギー分野のODA事業にかかる企画・監理等の経験を経て、みずほ総合研究所(現職)
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