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今月のワード:上下分離
上下分離とは、インフラなどの運営において、施設の所有者(下)と運営者(上)を分ける手法をいう。大規模な資産を持つ事業では、施設所有による負担を軽減できる効果がある。

上下分離の概念(鉄道の場合)
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鉄道・道路・空港・上下水道などは、少子化・高齢化が進み人口が減少していく日本では、利用の減少や利用料金収入の減少に伴い経営が厳しくなっていくことが予想される。このような状況下、今後、社会の根幹をなすこれらのインフラ施設・サービスをどのように維持していくかは大きな課題だ。

例えば、2000年度以降に全国で廃止された鉄道および軌道(路面電車など)は、乗降客数が少ない地域を中心に40路線879.2kmに上るが、それでもなお、2017年度は96の地域鉄道運営事業者のうち73事業者が経常赤字となっている(国土交通省鉄道局調べ)。つまり、大半の地域鉄道は、施設所有と運営を同じ事業者が担う上下一体の形態では、経営が成立しない状況にあるということだ。

もしここに上下分離の考え方を導入し、線路所有に伴う費用の負担をなくして運営のみを行うと仮定した場合、経常赤字の鉄道事業者の1/3以上が、鉄軌道事業の営業損益を黒字転換できることになる(筆者試算)。
事業者の負担軽減とオープンアクセス向上の観点で有効
上下分離の導入には大きく二つの効果がある。一つは、施設所有の負担やリスクが大きい事業について、施設を公共側が所有することで事業者の負担を軽減させる効果(負担軽減効果)である。鉄道事業を例に挙げると、諸外国では、公共側が施設を所有する上下分離を運営開始当初から採用する事例が多く、この点は日本の多くの鉄道の運営形態と異なっている。しかし、近年では日本においても、養老鉄道(岐阜県、三重県)のように、沿線自治体が線路を所有し民間の鉄道事業者が運営する例がある。

もう一つは、公共側が施設所有と運営の両方を担っている事業について、公募により選定した民間事業者が運営を行うことでより効率性が高まる効果(オープンアクセス向上効果)だ。京都丹後鉄道(京都府、兵庫県)のように、公共が過半を出資する第三セクターが、鉄道を運行する民間事業者を募集した例がこれにあたる。空港や有料道路などを民間事業者が運営するコンセッションと同様の考え方である。

上下分離の考え方 20190117kawashima-2.PNG
インフラの効率的な運営につなげることが必要
鉄道・道路・空港・上下水道など、上下一体での独立採算が成立しにくいインフラ事業において、上下分離の考え方を採用することは有効である。しかし、たとえ負担軽減の考え方であっても、効率的な運営を促すため、施設の全てを公共側が所有するのではなく一部の所有とする、所有する公共側に運営事業者が施設使用料を支払うなど、事業者に適切な負担を求めることは必要だ。また、オープンアクセスの考え方であっても、より広域的な範囲を対象とすれば、さらに効率的な事業運営を行うことも期待できる。

インフラへの上下分離の導入は有効である。有効な手法であるからこそ、導入にあたっては不採算事業の単なる存続とならないように、多面的な観点から検証を行い、当該インフラの効率的な運営につなげることが必要だ。

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川嶋 まさみ(かわしま・まさみ)
みずほ総合研究所 社会・公共アドバイザリー部 主任研究員
内閣府や国土交通省をはじめとする中央省庁および地方公共団体の政策調査、PPP/PFI事業化アドバイザリー業務などに従事。スポーツや観光の分野から、空港や上下水道のインフラ分野まで、多岐にわたる調査実績がある。ソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)など、新しい社会的投資モデルに関する調査研究も担当。主な論文に「PDCAサイクルの導入による事業の効果測定が不可欠」(金融財政事情)、主な講師実績に「官民連携事業の推進のための地方ブロックプラットフォーム研修」(国土交通省)、「PPP/PFI研修」(国土交通大学校)。早稲田大学卒業。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)。みずほ銀行にて産業調査などの経験を経て、みずほ総合研究所出向(現職)
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